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お知らせ

2018.10.26

創設者の思い

10月26日は、三気の会の創設者で初代理事長である故田中稔氏の20回目の命日でした。
三気の里グラウンド東側にある氏のお墓には、朝早くから縁ある方がたくさんお参りに来られました。利用者さんも自治会メンバーを中心に、お墓掃除とお墓参りをされました。

このブログを訪れていただいている方の中には、自閉症や発達障害、強度行動障害などのキーワードで来ていただいている方が多くいらっしゃると思います。

そこで今日は、故田中稔氏が自閉症について書かれた文章を紹介したいと思います。
書かれたのは30年以上前ですので、現在の考え方とは若干異なる部分もあるかもしれませんが、自閉症の子をもつ一人の親として真剣にその障がいと向き合い、その思いを伝えられるものです。

———-以下転載————

自閉症についての5つのお話し

 

 

社会福祉法人 三気の会 理事長
医師 田中 稔

 

この資料は、自閉症という障害について、家族や関わっておられる方たちを対象として書かれたものです。
自閉症については、報告から既に50年近くなりますが原因もどうして起こるかも分かっていません。従ってこの文章は、現時点での考え方を述べたものです。これを参考として自分の考え方を持っていただきたいと思います。一人一人の考え方や経験や実践が積み重ねられて、この子達への療育へのしっかりとした、大きな道ができていくものと思います。この資料がその為に少しでもお役に立てば幸いです。
自閉症の近接障害である(自閉的傾向、多動症、学習障害、微細脳障害症候群、注意集中障害症候群)、いわゆる発達障害といわれる障害にも応用ができます。

その1、自閉症という障害

自閉症という障害は、1943年アメリカのカナー医師によって特異な症候を持つ11例の子供たちが報告された事に始まるとされていますが、それ以前から存在していたと思われます。
当初、分裂病の早期発症例ではないか、又親の冷たい療育態度によって引き起こされた心因性の情緒障害ではないかという考え方がありました。その為、対応法も子供のあるがまま、なすがまま受け入れてあげなさい。そうすれば自閉症は治るといった助言がまことしやかに専門家といった人たちによって行われていました。この事は、今でも深い傷痕となって成人した一期生の子供たちの中に残っています。

1970年代になって、イギリスのラター、ウイング等によって「自閉症は、脳の発遠に障害があって起こる。その結果、脳の働きに歪みが起こり特異な言語障害、見たり、聞いたり、触ったりした事の意味や理解したり、応用したりする概念、認知能力に障害が見られる。これらの事が基本にあって人との関係が出来にくかったり、強いこだわりや常同行動が出たり、等の特異な症状を示す。』という考え方が提案されました。
この「脳に様々な重複した、複雑な発達の躓きがあって特異な症状を示す。」という考え方は、現在では多くの人の共通の認識になっています。

自閉的傾向、多動症、学習障害、微細脳障害症侯群、集中力障害症候群、強度行動障害、広汎性発達障害等についても、いずれも脳の何らかの発達の躓きを背景に持っていると考えられます。
躾の問題や心因性の問題や情緒障害がメインではありません。

その2、診断と把握について

自閉症の診断は、日本の優れた乳幼児健診制度によって、3歳頃までにチェックされています。多くのお母さんが言葉の遅れによって子供の異常に気づいています。診断の基準は
1.人間関係が(母親とも)育たない
2.言葉の遅れ、特異な言葉の使い方
3.こだわり、常同行動、特異な行動様式、パニック

これらの症状があれば、自閉症という診断が行われますが、注意すべきは症状診断であるという事です。診断書の取り方によって、自閉症と診断したり、自閉的傾向と診断したりといった事が起こります。診断名にこだわる事はあまり賢明なことではありません。
大切な事は、どういう診断名であれ、その子がどういう発達の躓きを持っているかという事をしつかり把握する事だと思います。

発達の状況の把握の仕方には、いろいろなものがありまずが、その1つにP,E,P(心理教育プロフィール)があります。

以下11項目についてPEPは、
発達尺度(7項目)
1.摸倣
2.知覚
3.微細運動
4.粗大運動
5.目と手の協応
6.言語理解
7.言語表出
行動尺度(4項目)
1.人、物との関わり方
2.感情表現の仕方
3.五感の働き、特異性
4.ことば
をチェックします。

その3.療育法について

自閉症の歴史は、何々療法で自閉症が治るといった言集に振り回された裏面史を持っています。治るではなくて、育てるというのが正しいのではないでしょうか。私たちは、療育について2つの大きな目標、柱を持っています。

一つは、「自己コントロール能力」です。

自閉症児は、座る、見る、それらをし続ける、人に合わせる、人と関わる、人の指示を聞く等が苦手な人たちです。自主性を尊重するという理由で、本人のなすがまま放任されているケースが多くあります。そうしていればパニックも起きませんが感覚的常同運動にのめり込んでしまっています。コントロールされた「自主性」でなければ、集団の中で生活し、楽しむ事は出来にくいと思います。集団が互いに協応し合う力を使って自主性を育てます。この事は、学ぶ態勢作り、基礎作りとして大切なステップです。

もう一つは、「コミュニケーション能力」です。

言葉、人との関わり、コミュニケーションに元々障害がある子供たちです。中心は「ことば」ですが、表出言語がなくて了解言語が増えるだけでもコミュニケーションの幅は広がります。又、種々のサインをとおしてコミュニケーションが可能な子もいます。その子が何を言おうとしているかを受け取る側が注意深く汲み取っていく姿勢も大切です。

基礎作りが出来て「やり、とり」が出来るようになると、「個別指導」を行いますが、この時の療育課題は、発達状況把握に使ったP,E,Pの到達点(すなわち芽生え反応を見ることができる点)を使う事が出来ます。
療育法自体には、遊戯療法、行動療法、感覚統合法、動作法、その他色々ありますが、いずれもその子に合った形で工夫することが大切です。

いずれも根気強く、一貫してやり続ける事が関わる側に求められています。

その4、薬物療法について

概念形成や認知する能力等の脳の働きに障害があると言われ、人との関わり、コミュニケーションが上手に出来にくい自閉症児者はその心も又、不安定で、脆く、傷つきやすい傾向があるようです。興奮、多動、不眠、自傷行為、強迫症状、躁鬱症状、分裂病様症状、チック、テンカン等見られます。
薬物療法は、これらの症状に対する対症、対応療法で補助的なものですが、使う事を初めから拒否するといったものではありません。

<薬物療法の原則>
1、行動分析を十分にする。(背景、誘因、関連症状等)
2、標的症状を明確にし、薬物を選択する。漠然と多量多剤の薬を投与すべきではない。
3、副作用を最小限にし、いつも注意する。

使われている薬剤は
1、向精神薬(節遮断剤等)
2、向精神薬の副作用防止薬
3、抗テンカン薬
4、不眠薬
5、安定剤
などです。
将来、優秀な薬が出てくる可能性はあります。

脳波について
脳が働いている時に、脳自身から弱い電流を発生しています。その電流を捕まえて増幅したものが脳波図です。脳の表面に近いところの働き具合は分かりますが、知能が分かるとか、性格が分かるといった事はありません。限界のある検査法です。

その5、将来を見据えて

自閉症児者は、「人は人の中で生きていく」という人としての根幹に関わるような部分にハンディを持った人たちです。高機能自閉症といわれるような人たちでも生涯にわたって援助が必要な人たちです。

一般的には、3歳頃と思春期の頃に情動の不安定な時期があります。現在では、優れた乳幼児健診の為に多くの障害児の早期診断が可能です。その結果、早期療育が可能な状況にあります。
かわいい盛りの子供ですが、健常児の中に入れておけば自然と良くなるといった事はありません。3歳の健常児さんは、立派に大人の世界で生きていく知恵を持っています。後は「共育」によって育ちますから、場を与えれば、自分で育っていきます。
障害児には、「共育」と共に「教育」・「療育」の場が必要です。そこに関わる人の理論、工夫、技法、経験、専門性が問われる事になります。

「どういう大人になってほしいか」という想いをしっかり持って、「人として生きる能力」、「人の中で生きる能力」を一つ一つ、根気強く一貫性を持って、働きかけ続ける事が求められている子供たちです。元々、行動がパターン化しやすい、歪みやすいという特徴があります。二次性の障害を作りやすいという特徴があります。この事は、大切な注意点です。

障害児の療育の主たる場は、家庭における「子育て」にあります。お母さんが「療育者」になっていただく事が求められます。家庭での療育の課題はまず「体作り」「身辺自立」「生活能力」「社会性」といったことになります。

その子の持っている素質、能力いっぱいに育てる根気強い毎日毎日の働きかけの積み重ねこそが、その子の将来を決めるものと思います。

—————-ここまで—————-
※創設者の思いを伝えるために、原文をそのまま使用しています。