●自閉症についての5つのお話

この資料は、自閉症という障害について、保護者や関わっておられる方たちを対象として書かれたものです。 自閉症については、報告からすでに50年近くになりますが原因もどうして起こるかも分かっていません。従ってこの文章は、現時点での考え方を述べたものです。

これを参考として自分の考え方を持っていただきたいと思います。一人一人の考え方や経験や実践が積み重ねられて、この子達への療育へのしっかりとした、大きな道ができてくれるものと思います。 この資料がその為に少しでもお役に立てば幸いです。自閉症の近接障害である(自閉的傾向、多動症、学習障害、微細脳障害症候群、注意集中障害症候群)いわゆる発達障害といわれる障害にも応用ができます。

「三気の会」設立発起者
故・ 田中 稔


その1、自閉症という障害

自閉症という障害は、1943年アメリカのカナー医師によって特異な症候を持つ11例の子供たちが報告されたことに 始まるとされていますが、それ以前から存在していたと思われます。

当初、分裂病の早期発症例ではないか、又親の冷たい療育態度によって引き起こされた心因性の情緒障害ではないかという 考え方がありました。その為、対応法も子供のあるがまま、なすがまま受け入れてあげなさい、そうすれば自閉症は治るといった 助言がまことしやかに専門家といった人たちによって行われていました。このことは今でも深い傷痕となって成人した一期生の 子供たちの中に残っています。

1970年代になって、イギリスのラター、ウイング等によって「自閉症は、脳の発達に障害があって起こる。その結果、 脳の働きに歪みが起こり特異な言語障害、見たり、聞いたり、触ったりした事の意味や理解したり、応用したりする概念、 認知能力に障害が見られる。これらの事が基本にあって人との関係ができにくかったり、強いこだわりや常同行動が出たり、 等の特異な症状を示す。」という考え方が提案されました。 この「脳にさまざまな重複した、複雑な発達の躓きがあって特異な 症状を示す。」という考え方は、現在では多くの人の共通の認識になっています。

自閉的傾向、多動症、学習障害、微細脳障害症候群、集中力障害症候群、強度行動障害、広汎性発達障害等についても、い ずれも脳の何らかの発達の躓きを背景に持っていると考えられます。躾の問題や、心因性の問題や情緒障害がメインではありません。

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その2、診断と把握について

自閉症の診断は、日本の優れた乳幼児健診制度によって、3歳頃までにチェックされています。多くのお母さんが言葉の遅 れによって子供の異常に気づいています。診断の基準は人間関係が(母親とも)育たない、言葉の遅れ、特異な言葉の使い方 こだわり、常同行動、特異な行動様式、パニック、これらの症状があれば、自閉症という診断が行われますが、注意すべきは 症状診断であるということです。診断者の取り方によって、自閉症と診断したり、自閉的傾向と診断したりといったことが起こります。

診断名にこだわることはあまり賢明なことではありません。 大切な事は、どういう診断名であれ、その子がどういう発達の躓きを持っているかという事をしっかり把握することだと思います。 発達の状況の把握の仕方には、いろいろなものがありますが、その一つにPEP(心理教育プロフィール)があります。 以下11項目について

PEPは、

発達尺度(7項目)

  • 1.模倣
  • 2.知覚
  • 3.微細運動
  • 4.粗大運動
  • 5.目と手の協応
  • 6.言語理解
  • 7.言語表出

行動尺度(4項目)

  • 1.人、物との関わり方
  • 2.感情表現の仕方
  • 3.五感の働き、特異性
  • 4.ことば

をチェックします。

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その3、療育法について

自閉症の歴史は、何々療法で自閉症が治るといったことばに振り回された裏面史を持っています。治るではなくて、育てる というのが正しいのではないでしょうか。私たちは、療育について2つの大きな目標、柱を持っています。

一つは、「自己コントロール能力」です。 自閉症児は、座る、見る、それらをし続ける、人に合わせる、人と関わる、人の指示を聞く等が苦手な人たちです。自主性を 尊重するという理由で、本人のなすがまま放任されるケースが多くあります。そうしていればパニックも起きませんが、感覚 的常同にのめり込んでしまっています。コントロールされた「自主性」でなければ、集団の中で生活し、楽しむ事は出来にく いと思います。集団が互いに供応し合う力を使って自主性を育てます。この事は、学ぶ態勢作り、基礎作りとして大切なステ ップです。

もう一つは、「コミュニケーション能力」です。 言葉、人との関わり、コミュニケーションにもともと障害がある子供たちです。中心は「ことば」ですが、表出言語がなくて 了解言語が増えるだけでもコミュニケーションの幅は広がります。又、種々のサインをとおしてコミュニケーションが可能な 子もいます。その子が何を言おうとしているのかを受け取る側が注意深く汲み取っていく姿勢も大切です。

基礎作りが出来て「やり、とり」が出来るようになると、「個別指導」を行いますが、この時の療育課題は、発達状況把握 に使ったPEPの到達点(すなわち芽生え反応を見ることができる点)を使うことが出来ます。 療育法自体には、遊戯療法、行動療法、感覚統合法、動作法、その他いろいろありますが、いずれもその子に合った形で工 夫することが大切です。 いずれも根気強く、一貫してやり続ける事が関わる側に求められています。

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その4、薬物療法について

概念形成や認知する能力等の脳の働きに障害があるといわれ、人との関わり、コミュニケーションが上手に出来にくい自閉 症児者はその心もまた、不安定で、脆く、傷つきやすい傾向があるようです。興奮、多動、不眠、自傷行為、強迫症状、躁鬱 症状、分裂病様症状、チック、テンカン等見られます。薬物療法は、これらの症状に対する対症、対応療法で補助的なもので すが、使うことを初めから拒否するといったものではありません。

○薬物療法の原則

  • 1.行動分析を十分にする。(背景、誘引、関連症状等)
  •  
  • 2.標的症状を明確にし、薬物を選択する。
  • 3.漠然と多量、多剤の薬を投与すべきではない。
  •  
  • 4.副作用を最小限にし、いつも注意する。

○使われている薬剤は

  • 1.向精神薬(節遮断剤等)
  •  
  • 2.向精神薬の副作用防止薬
  •  
  • 3.抗テンカン薬
  •  
  • 4.不眠薬
  •  
  • 5.安定剤

等です。将来、優秀な薬が出てくる可能性はあります。

○脳波について

脳が働いている時に、脳自身から弱い電流を発しています。その電流を捕まえて増幅したものが脳波図です。脳の表面に近 いところの働き具合は分かりますが、知能が分かるとか、性格が分かるといった事ではありません。限界のある検査法です。

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その5、将来を見据えて

自閉症児者は、「人は人の中で生きていく」という人としての根幹に関わるような部分にハンディを持った人たちです。高 機能自閉症といわれるような人たちでも生涯にわたって援助が必要な人たちです。一般的には、3歳頃と思春期の頃に情動の 不安定な時期があります。現在では優れた乳幼児健診のために多くの障害児の早期診断が可能です。その結果、早期療育が可 能な状況にあります。かわいい盛りの子供ですが、健常児の中に入れておけば自然と良くなるといった事ではありません。3 歳の健常児さんは、立派に大人の世界で生きていく知恵を持っています。後は「共育」によって育ちますから、場を与えれば 、自分で育っていきます。障害児には、「共育」と共に「教育」「療育」の場が必要です。そこに関わる人の理論、工夫、経 験、専門性が問われる事になります。

「どういう大人になってほしいか」という想いをしっかり持って、「人として生きる能力」、「人の中で生きる能力」を一 つ一つ、根気強く一貫性を持って、働きかけ続けることが求められている子供たちです。元々、行動がパターン化しやすい、 歪みやすいという特徴があります。二次性の障害を作りやすいという特徴があります。この事は大切な注意点です。

障害児の療育の主たる場は、家庭における「子育て」にあります。お母さんが「療育者」になっていただく事が求められま す。家庭での療育の課題はまず「体作り」「身辺自立」「生活能力」「社会性」といったことになります。 その子の持っている素質、能力いっぱいに育てる根気強い毎日毎日の働きかけの積み重ねこそが、その子の将来を決めるもの と思います。

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